2021/01/20

諸悪の根源は主人公!『インセプション』は色々残念な映画。




2010年公開のアクションSF映画『インセプション』のネタバレ感想をお送りします。

下の「あらすじ」の一行目で、半分くらいの人が脱落しそうな映画です。



あらすじ



コブは人の夢に侵入し、情報を盗みとる産業スパイ。

凄腕として名の知れたコブだが、最近は調子を落としていた。

日本人実業家サイトーから情報を盗もうとした際、死んだ妻の幻影が乱入し失敗。逃亡するも、つかまってしまう。

サイトーは、コブに、とある仕事を持ち掛ける。

目的は、世界のエネルギー産業を独占する複合企業を解体すること。そのためのアイディアを、最近跡を継いだ若手経営者ロバートの夢に「植え付ける」というものだった。

情報を盗むことはできても、植え付けることはできない。しかし、サイトーは、コブなら可能であることを見抜いていた。

多額の報酬はもちろん、すべての犯罪歴と、妻の殺害容疑を白紙にする、というサイトーの言葉を信じて、コブは仕事を引き受ける。

ロバートが飛行機で移動する時間を利用し、彼の夢に侵入したコブは、次々と襲い来る不測の事態に計画の変更を余儀なくされ、夢の階層深く潜っていく。

下の階層になるほど時間の流れが遅くなることを利用するためだったが、最下層に待ち受けているのは「虚無」の世界。潜在意識の辺獄と呼ばれ、ここに落ちたものは現実世界で目を覚ますことができないとされていた。

はたしてコブは、仲間たちと共にミッションを成功させ、無事に夢から抜け出せるのか。

それとも、虚無にとらわれ、永遠に潜在意識の辺獄をさまようことになるのか。

追い詰められたコブの前に、ふたたび妻の幻影が現れる…。



登場人物


コブ

夢から情報を抜き取る産業スパイ。妻モルとの間に二人の子供がいる。
妻殺害の容疑をかけられ、米国に戻れずにいる。



モル

コブの妻。故人。劇中に登場するのはコブがアリアドネに語る回想と、コブの潜在意識が作り出した幻影のみ。



マイルス教授

モルの実父。パリの大学で教鞭をとる。コブが妻殺害容疑で逃亡した後、残された子供たちの面倒を見ている。コブにアリアドネを紹介する。



アリアドネ

マイルス教授の教え子。夢の世界を構築する「設計士」として、チームに加わる。恩師に紹介された仕事先が産業スパイってどうなの?



アーサー

コブの右腕。イケメン。コブがモルの幻影に悩まされていることを知っているが、彼の能力を誰よりも信頼している。



イームス

夢の中でターゲットの縁者になりすまし、シナリオ通りに動かす「偽造師」。



ユスフ

夢の世界を安定化させる薬の「調合師」。今回は多層構造のミッションにつき、普段より強力な薬を使っている。



サイトー

日本人実業家。コブの才能を見込んで仕事を依頼する。



ロバート

エネルギー複合企業の若き後継者。父に愛されていなかったことを知り、心に傷を負っている。
潜在意識に、一度に6人もの他人が土足で入ってくるという、超かわいそうな人。



監督とイマジネーションの共有ができるか



劇中で展開する夢の世界の法則は、は科学的根拠に基づくものではなく、クリストファー・ノーランが独自に考案したものです。

「こういう設定で話すすめるよ」って冒頭で説明されて、「その設定面白いね!」と思えるかどうかが第一関門。

しかし第一関門を突破しても、後出しジャンケンのように、「虚無」とか「今回は夢の中で死んだらアウト」とか、特殊設定を追加してくるのがけっこうキツイ。



上司にしたくない男ナンバーワン



とにかくコブが無能すぎてイライラします。リーダーとしてこれほど不適格な人がいるだろうか。

潜在意識に問題を抱えていることを隠し、多額の報酬をエサに仲間を誘い込む。

案の定モルの妨害に遭い、仲間を危険に晒し、サイトーは瀕死状態なのに、逆ギレして人のせいにする。

行き当たりばったりでほとんど無計画ともいえる作戦行動。

通常の任務では、夢の中で死ねば目が覚めるのに、今回は強い薬を使っているので、死んだら虚無に落ちる、という超重要なことも事前に告知していない。

…酷すぎません??

コブ以外のメンバーが全員有能だったから、結果なんとかなっただけ。



ここがビミョー!



コブと仲間たちが、ドンパチやら、ロバートの懐柔やら、夢からの脱出やら、色々一生懸命がんばっていても、「でも結局、やってることは犯罪だよね??」と思うと冷めちゃうんですよねぇ。

う~ん、それを言っちゃおしまいなので、ここはスパッと動機を忘れて、夢の世界の描かれ方、上層の夢が下層の夢に与える影響(第二階層の無重力シーン)などを楽しむべきかな。



アリアドネが街をどんどん作り変えていくところは面白いですよ。女子大生の想像力は無限に広がる!

逆に、ロバートの夢は現実世界に似すぎていて、ちょっと物足りない。まぁ、対象に夢だと気づかれてはいけないので、仕方ないか。



人一人にアイディアを植え付けたくらいで、企業が解体できるか??



ロバートは、「”自分の思うように生きろ”と父から遺言をもらった」「父から愛されていた」という記憶を植え付けられるんですが、はたしてそれが現実世界で企業の解体につながるんでしょうかね?

ロバートが会社を解体するといったところで、他の経営陣から反対され、ロバートが解任されて終わるんじゃないかな…。サイトーは、どうしてこんな回りくどいやり方を選んだんでしょう。航空会社買収したり、犯罪歴を白紙にできるくらいの金と権力があるならば、他にもっとスマートな方法があったように思えます。



心配なのはロバートの今後の人生。

コブが植え付けた「この世界は現実じゃない」というアイディアによって、モルは自殺に追い込まれるんですけど、ロバートも後々「偽の幸せな記憶」と、現実の乖離に苦しめられるのかもしれない。ロバート何にも悪いことしてないんだよ…。可哀想すぎない??



ここがヘンだよ!



他人の夢に侵入するには、謎の箱型機械と、夢に入る人間全員をコードで物理的につなぎます。

機械がどういう仕組みなのかは、まぁ、置いといて。

第一階層から第二階層へ、第二階層から第三階層へ潜るときにも、その機械があるんですよね~。夢の中なのに!

私にはこれが不思議でなりませんでした…。



どう考えてもリスクが高すぎる



悪いことをしようとするとき、相手にばれないように何かを成し遂げたいときに、自分が眠っていたらどうですか?

しかもターゲットの至近距離で眠っているんです。

相手が自分より先に目覚めたらどうなるでしょう。すぐ捕まってしまいますね。

夢の中に入れたとしても、産業スパイに活用するのは難しいんじゃないでしょうか。

『インセプション』の世界では、夢をあらかじめ構築し、薬で眠る時間を調節することができます。階層を深くすれば、永遠に近い時間を過ごすことも可能です。



ユスフはそれらを駆使して、人に夢を体験させる「夢屋」を営んでいます。こちらの方がよっぽど金になりそうです。幸せな夢を、好きなだけ見られるんです。依存症になる人も多いでしょうし。

犯罪に使うとすれば、耐えがたい悪夢に放り込んで、対象の精神を破壊する、なんてのが良いかと。とにかく産業スパイには向いてない。

夢の世界に入るというアイディアは面白いけど、そこから先のシナリオがダメ、なんですね。惜しい映画です。



おすすめ度★★☆☆☆



ストーリーはハチャメチャだし、主人公に感情移入もできないし、アクション場面は退屈だし、とにかく長い(2時間42分)。万人におすすめできる作品ではありません。

「ロバートの人生を台無しにした代わりに、コブが過去のトラウマを克服して、愛する子供たちのもとに帰ることができました。めでたしめでたし。」…ってまとめちゃうと、だいぶ酷い映画だな。

アーサー役のジョセフ・ゴードン=レヴィットがカッコイイので、彼のファンは観て損はない。

似たような設定の映画なら、今敏監督の『パプリカ』の方が良くできています。こちらはオリジナルではなく、筒井康隆の小説が原作です。




違う映画をオススメしてどーするよ!!

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。


ポチっとよろしく♪

応援ありがとうございます♪

6 件のコメント :

  1. あらすじ」の一行目で結構面白そうと思ったのですが、イマイチなのね…そうなのね(´・ω・`)
    たしかにumeさんの説明読むと駄作感がすごいっ!w

    『パプリカ』は原作は未読ですが、アニメのほうはかなり好きな世界観です。

    返信削除
    返信
    1. >虎ノ介さん
      ここまでケチョンケチョンに書いておいてナンですが、実は私、この映画嫌いじゃないんです^^
      ただ、オススメできるかというとちょっとなぁ…。

      米津玄師の楽曲の方が世間では知名度高いですけど、私的に「パプリカ」と言ったらこっちの映画を思い浮かべますね。
      ほぼ原作通りのストーリーなので、小説読んでなくても大丈夫です♪

      削除
  2. 面白かったです。じっくり読ませていただきました。
    いま思うとこの映画、なかなかいい俳優がたくさん出てますね。もう一度見直そうかしら。
    結末については聖書とか哲学書を読み解いてますよね。「敵は我にあり」
    『地獄の黙示録』とかもおんなじでしょうね。
    (=^・^=)

    返信削除
    返信
    1. >dalichokoさん
      キリスト教の素養がないと、見落としてしまう小ネタとか、ありそうですねぇ。
      「辺獄」という言葉もカトリック由来のものですし。日本人は「辺獄」と言われてもピンとこない。「虚無」と和訳したのは正解だと思います。
      ブログでは色々ダメ出ししましたが、この映画キライじゃないんですよ(笑)

      削除
  3. まったく知らない映画ですが、umeさんの解説を読んでると、なんというか… 中二病の妄想作品的な感じ??
    歳とともにフィクションを楽しむことが難しくなってきたけど、ここまで現実感がないとねぇ〜。何言ってるの?って感じで途中で見るのをやめてしまいそう^^; 
    でもあいかわらず容赦なしのボロクソさかげんで、umeさんの映画レビューはそれ自体が読み物として面白いです!( *^艸^*)

    返信削除
    返信
    1. >うまんまさん
      公開当時けっこう話題になっていたと思いますが、うまんまさん、御存じないですか^^
      ボロクソに書いてますが、実は嫌いじゃないんです。DVDも持ってるくらい(笑)
      私はSF大好物なので、クリストファー・ノーランのような想像力豊かな監督が、嫌いにはなれないの( ´艸`)

      削除