『図書館警察』/スティーヴン・キング
スティーヴン・キングは『キャリー』『ミザリー』『シャイニング』『グリーンマイル』『ショーシャンクの空に』『スタンド・バイ・ミー』など、作品が多数映画化されていますので、ご存知の方も多いかと思います。昨年『IT』が、最近では『ダーク・タワー』が公開になったばかりです。
ブロガーのヨウコさんにご紹介いただいた本です。
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ヨウコさんが川で出会った野鳥たちの写真や、映画・本・ドラマのレビュー、自作の俳句など、読み応えたっぷりで、きらめきに満ち溢れたblogです。いつも発見や刺激をいただいております。
表題作と『サン・ドッグ』の二作が収められています。今回は、『図書館警察』のみにスポットを当ててみました。
導入部
1990年3月、アイオワ州ジャンクションシティ。
主人公は、この町へ6年前に引っ越してきた男、サム・ピーブルズです、
サムは40歳で独身。不動産と保険を扱う事務所の社長をしています。
社長といっても、悠々自適の生活を送っているわけではありません。
社員は自分一人しかいないので、セールスマンとして忙しく働く毎日です。
物語は、サムがスピーチの代役を頼まれるところから始まります。
原稿を仕上げる為、図書館でネタとなる本を借りることにするのですが…。
タイトルが『図書館警察』ですから、読者は「図書館で何かが起こるんだろうな」と予測できますよね。
ええ、起こりますとも…。
不気味な図書館と司書
サムが
内部描写が恐ろしい。さすがスティーヴン・キング。この部分だけでも映像化希望です。
あきらかに異常なんですけれど、サムは初めてこの町の図書館を訪れた為、その異常性に気付かない。
この部屋では、空気さえいつもより重苦しく感じられた。ふつうの空気とは異なり、光をきちんと通さないように思える。静寂は毛布のように厚く……氷のように冷ややかだった。
図書館には人けはなかった。
冷たく、暗く、湿っぽく、悪意に満ちた空間です。
サムが図書館を一通り見て回ったころ、満を持して現れる司書。
「A・ローツ」を名乗るこの老女がもう…。もしこの場に鬼太郎がいたら、妖怪アンテナバリ3(色々古い)ですよ。
職務に忠実だし、態度はすごく好意的なのに、目が笑ってない。
ミズ・ローツは満面をほころばせた。他意のない純粋な喜びの表現のようだった。ただしサムは、またしても気づいた…目だけは笑っていない。児童図書室で最初に出会ったときから…いやこの女性に見つけられたというべきか…その目はまったく表情を変えていないような気もする。ひたすら見つめつづけているのだ。
「わたし、子どもたちが大好きで。」と言っていたはずなのに、「一番悪質なのは子どもたちですけど」って、平気でのたまう。何この人!おかしいよ!
昨年公開の映画『IT』でも、感じの悪い司書のオバサンが出てきました。本を「バンッ」と机に叩き付けて、子どもをにらみつけるんです。キングは何か図書館に嫌な思い出があるんでしょうか。
サムが何気なく発した忠告(~~した方がいいのでは?ぐらいのニュアンス)がきっかけで、この不気味な司書を怒らせてしまいます。
言葉を発するたびに、ドツボにはまるサム。
サム、逃げて~!超逃げて~~!
もうその女に関わらない方がいいって!
読者の必死の呼びかけは、サムには届かないのでした。
そして図書館警察がやってくる
スピーチを大成功させたサムのもとに、大口の仕事が舞い込みます。
浮かれたサムは、図書館への返却期限を忘れ、あげく本を失くしてしまうのです。
迂闊すぎだろ…サムよ。
しかしこれも実は司書の思惑通り、なのが恐ろしい。
本を期日に返さないとどうなるのか?
そう。
サムがこの世で最も恐れている「図書館警察」が家にやってくるのです…。
二人の友人
A・ローツの標的となり、絶体絶命のサムに救いの手を差し伸べるのが、臨時秘書のナオミ・ヒギンズと、ホームレスの「ダーティ・デイヴ」ことデイヴ・ダンカンです。
ナオミも優しい良い子なんですけど、とにかくデイヴがめっちゃいい奴なんですよ。自分だって酷い目にあったのに、サムのことを本気で心配してくれます。
普段はホームレス仲間の面倒を親身になって見ているし、スタン・ホームズの息子にしてあげた10年前の出来事にいたっては、もう涙なしでは読めませんでした。
デイヴに感情移入すると、彼が物語の結末にどうなるのか、非常に不安を覚えます。
…どうかお願い、デイヴ、死なないで!
疑問点
デイヴによって、A・ローツの過去が明らかにされる中盤、ふと疑問が浮かんできました。
なぜA・ローツは、サムに偽名を使わなかったのでしょうか?
偽名であれば、町の過去を知るナオミやデイヴが、「A・ローツ」と「サムが出合った司書」を結びつけることはなかったと思います。
少しモヤモヤしたんですけれど、自分なりの解釈は以下↓
【少しネタバレ】なぜサムが選ばれたのか?の考察
ナオミのアドバイスがきっかけで、サムは図書館を訪ねることになったのですが、そこはナオミが思っていた場所とは違いました。
A・ローツに呼ばれたのかな…と最初思いましたけど、そうではありません。訪れた時、A・ローツは不在でした。司書の名を記したプレートが、カウンターの上に置かれているだけでした。
ポイントは、30年前彼女が眠りについたのが夏であった、という点。
本来ならもう少し先の7月ごろ目覚めるはずだったのが、サムが彼女の図書館に迷い込んできたことで、覚醒が早まったのではないでしょうか。
目覚めた時、サムはすでに貸出カウンターで司書の名を見ていたので、偽名を使いたくても使えなかったと考えると、つじつまが合う気がします。
では、なぜサムがA・ローツの図書館に迷い込んだのか…?
実は、サムは図書館を酷く恐れています。
過去の忌まわしい出来事がきっかけなのですが、その出来事以来30年もの間、図書館に足を向けたことがなかったほどです。(地味にここでも30年がキーワード)
サムの潜在意識に潜む「図書館への恐れ」はとても巨大です。トラウマを抱えたサムだからこそ、A・ローツの秘密の図書館の扉を開くにいたったのです。
結末は…?
天涯孤独で、街に親しい友人もいない。サムが「適任者」であることが分かって、A・ローツはさぞ喜んだでしょうね。
彼の心の傷を、A・ローツが利用しようとしていることにデイヴは気が付き、サムに助言します。
「
サムのトラウマとは何なのか?
トラウマを克服し、A・ローツの企みを阻止することができるのか?
そして、可哀想なデイヴは幸せになれるのか?
気になった方は、ぜひ本書を手に取ってみてください。
ただ、サムのトラウマとなった出来事は、けっこうショッキングな(子供には読ませたくない)内容です。ご注意くださいね。
余談
『図書館警察』は、札幌市の図書館で借りました。
この表紙をご覧ください。
なんと…! |
濡らしたのは私じゃないのに、代わりに怒られている感じがしますね。まぁそれは良いんですが。
それにしても、よりによって『図書館警察』を汚すとは。
度胸があるなぁ、と妙に感心してしまいました。
図書館の本は、大切にしましょう!